溺愛音感


ランチは、お弁当。
マキくんが激務を脱し、わたしのお弁当生活も復活した。


(今日のマキくんのお弁当、何かなぁ……)


わたしが起き出す頃には、すでに朝食の準備は整い、お弁当も完成しているので、中身は食べるまでわからないのだ。

ウキウキしながら緑茶を用意し、ダイニングテーブルについてお弁当箱の蓋を開け、思わず感嘆の声を上げた。


(すごい……美味しそう……マキくん天才)


売り物になりそうなクオリティだ。

色どり、栄養のバランスを考えて作られた料理が、「曲げわっぱ」と言うらしいレトロなお弁当箱にぎっしり詰まっている。

メインは炒り卵、鶏ひき肉、桜でんぶの三色そぼろ。お花の形をしたニンジンがアクセントに。
おかずは、きんぴらごぼう、いんげんのごまあえ、たけのこの土佐煮、しょうゆ味のうずらのたまごに、マカロニサラダ、ブロッコリーとミニトマト。

ひと口、そぼろをご飯と一緒に頬張って、あまりの美味しさに悶絶した。


(うーん、マキくん、いいお嫁さんになれるよぅ……)


美味しいものを作れるひとは、すごい。
美味しいものを食べれば幸せな気分になれる。

つまり、相手を幸せにできるということだ。

あっという間に完食し、丁寧にお弁当箱を洗いながら、晩ごはんに思いをはせる。


(今日はバイトがあるから無理だけど……明日の晩ごはんは、わたしが作ろうかな? ミツコさんに教わったみそかつ煮とか、マキくん好きかなぁ……)


唯一の難関は「とんかつ」だが、商店街のお肉屋さんで売っているものを使うという手がある。
ミツコさん曰く、忙しい兼業主婦は、適度に「お惣菜」を利用するらしい。

無理をせず、でも少しずつ上達していければいい。


(ほんと、マキくんがB級グルメも好きでよかった。そう言えば、マキくんに連れて行ってもらったチェーン店の牛丼も、美味しかったなぁ……)


本格フレンチやイタリアン、料亭のような和食しか受け付けない、味にうるさい超セレブだったなら、へたくそな手料理を食べてもらおうなんて思わなかった。

見た目や雰囲気ではなくて、中身が重要。
誰かの評価ではなくて、自分自身の評価が大切。

俺様は、大事なことがわかっている。
だからこそ、俺様でいられるのだと思う。


(あんな風になりたいけれど……なれないんだよね……)


再び落ち込み、「はぁ」と溜息を吐いた時、スマホが鈍い音を立てて震え出した。
ディスプレイには、『女帝』の文字が躍っている。


(音羽さん? 何の用……?)


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