溺愛音感
「もしもし?」
『ハナ。あなた、暇でしょ。ヴァイオリンを持って、うちに来なさい。じゃあね』
「え。ちょ、音羽さ………」
一方的に用件を告げた女帝(母)は、一方的に電話を切った。
慌てて架け直すが「電源が入っていないか、電波の届かない……」というアナウンスが流れるだけ。
気が向いた時にしか、スマホの電源を入れないという何ともハタメイワクな人だ。
(行かない……わけには、いかないよね)
盛大な溜息を吐き、「でも」と思い直す。
(音羽さんに、相談してみてもいいかも)
一流のピアニストとして国内外で活躍する母は、時々コンクールの審査員なんかも務めていたはずだ。
いまさらあがいても無駄、と言われるかもしれないが、訊くだけはタダだし、身内にも容赦ない人だからこそ、ごまかしも嘘も吐かないだろう。
さっそくヴァイオリンケースを手に、出かけることにした。