溺愛音感
ハナ、お嬢様に会う



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(はぁ……疲れた)


三輪さんのご自宅でのレッスンを終え、駅までの道のりを歩きながら、つい溜息を吐いてしまった。

コンクールへ応募したいと告げると同時に、三輪さんに個人レッスンのお願いをし、隔日の週三回、空いている午前中の二時間をわたしのために確保してくれることになった。

初回のレッスンは、練習計画を立てることと、わたしの基礎的な技術を確かめることに費やされ、本格的なレッスンは今日からだったのだが……。


(ものすごいスパルタなんだけど……)


ニコニコ笑いながらダメ出しされるのは、怖い顔でダメ出しされるより、何倍もの圧を感じる。

穏やかな表情、落ち着いた声で、『次、同じところミスったら、どうしようかなぁ?』なんて言われた日には、『もう二度とまちがえません!』と半泣きで反省せずにはいられない。


(スパルタと言えば、美湖ちゃんも……)


今週末の金曜日には、以前から企画を温めていたランチコンサートがいよいよ実現する。

場所は『KOKONOE』本社ビル。
時間は十二時半から十三時の三十分の予定。

演奏する曲目は、みんなで話し合った結果、夏らしいポップスや癒し系のクラシック、仕事の合間にリラックスできて、かつ気分が上向くようなものを取りそろえた。

メンバーは、平日の昼間に自由な時間を取れる学生や、フレックス制を採用しているいまどきの会社で働く若手中心。

わたしも誘われたけれど、オケの活動と来週の日曜日に控えている芸術祭の宣伝も兼ねているので、正式なオケのメンバーではないことを理由に、参加を辞退した。

取りまとめ役は、美湖ちゃん。

練習の実態はわからないが、ヨシヤの愚痴から察するに、美湖ちゃんは妥協を許さない厳しさで、メンバーを半泣きにさせているようだ。

演奏に参加はしないが、聴きに行くつもりなので、どんな感じに仕上がっているのか楽しみだ。


(お昼食べたら、まずは三輪さんに言われたことを復習して、それから明日の曲をさらって……)


頭の中で、マキくんのお弁当を堪能したあとの予定を立てながら、ホームで電車を待っていたら、ヴーと鈍い音がした。

鞄の中からスマホを取り出せば、「ORESAMA-OFFICE」と表示されている。


(ん? マキくん……?)


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