65年間のラブレター
2020年8月10日

享年80歳で妻の如月棗(きらさぎ なつめ)が天国へ旅立った。
65年間、共に歩んでくれた人だった。
特に贅沢はさせてあげられなかったし、苦労もかけた。
だけど私達の人生は、凄く色付くものになったと思う。

なんて思うが、君はどうだっただろうか。
今思っても、もう答えは聞けやしない。

葬儀も終わり、帰省していた息子達も帰って行った。

私の生活から棗が消えて、1ヶ月。

特に味気のない生活になってしまった。

あまりしてこなかった家事に慣れるよう、精一杯頑張った。
本当に妻に頼りきりだったのだと少し失笑した。
もう少し感謝するべきだったなと、少し後悔した。

洗濯物を干し終わり、痛めた腰を伸ばしていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

「こんにちはー、郵便でーす」

はーい、と返事をし、玄関へ向かう。

扉を開けたらこんがりと肌が焼けた気の良さそうな青年が立っていた。
少し汗をかいている。もうすぐ秋になるといってもまだ残暑がありまだまだ暑い。
 
「こちらにサインをお願いします」
「はい、ちょっと待っててね」

たしかテーブルに塩分を補給する飴があったはずだ。
それを取りにリビングへ一旦戻った。

「はい、お兄さん。こんな暑い中お疲れ様。ありがとうね」

そういって、私は彼に飴を渡した。

「え!いいんですか!ありがとうございます!」

彼はお礼をいって飴を受け取り、そのまま次の仕事にいった。

先ほど持っていた飴の代わりに、少し小さいダンボール。

はて、何か頼んだかな。と思いながら差出人を見て腰を抜かすところだった。

【如月棗】

差出人は、亡くなった妻からだった。

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