カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
きっとどこかの御曹司か富豪の類だろう。

この場にいるということは、何かしらの肩書きを持った人物であることに間違いない。そう判断して警戒を強めた。

「どこかお加減が優れませんか? 立っているのもつらいように見えますが」

低く男らしい声質なのに、口調は柔らかく優雅。

さっきまで見ていたオペラの王子様役を彼がやればぴったりだ、なんて呑気なことを考えてしまった。舞台映えする顔をしている。

「大丈夫、です……」

どこの誰かもわからない彼に迷惑をかけるわけにはいかない。運悪くどこぞの大物に手間をかけさせたとなれば大事だ。

清良の行動はとある女性の評価に直結している。

なにしろ、今、清良は、その女性になりすましてこの場に潜り込んでいるのだから。

しかし、男性は勝手に清良の手を取り、人の多いほうへ歩き始めた。

「医務室までお送りしましょう」

どうやらその男性は意外と強引な性格の持ち主らしい、初対面の女性の手を勝手に握って引っ張っていくなんて。

柔らかな口調とは裏腹に、有無を言わさぬ圧力を持ち合わせている。

せっかくここまで誰とも接触することなく身をひそめていたのに、ここで目立ってしまっては水の泡。

そもそも、公演中だというのにこの男性はどうしてこんなところにいるのだろう?

訪れた賓客たちは皆、中でオペラを観劇中のはずだ。彼は誰?

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