捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「だって、このマフィンだって『部下と』食べるって言ってたんだよ? あの若さで部下って、仕事できる人ってことでしょ」

 敦子はしたり顔で答える

「は~、なるほどね」

 私はもう感嘆の息を漏らすほかなかった。

 観察力? いや、推理力とでもいうのか。どちらにしても、私にはそういう力は備わっていない。
 敦子に感心していると、彼女は急に肩を落としてため息をつく。

「でも私には望みはないなあ」
「どうして?」

 確かに佐渡谷さんはいい人なうえ、容姿もすごくいいから競争率は高そう。しかし、
男女の話なんて、どうなるかは誰にもわからないことなのに。

 私が最後のマフィンに手を伸ばすと、敦子が横目で私を見て口を尖らせた。

「いや、あれは完全に真希に好意持ってるでしょ」

 私の手から、袋に入れたマフィンが調理台の上にコロンと転がった。
 敦子は両手を上げて伸びをして私に背を向けながら続ける。

「だから、今日それは真希が渡しに行ってね! 私は人の恋路を邪魔するほど野暮じゃないし」
「ちょっと、なに言って……」
「だって昨日、佐渡谷さん、真希のほうばかり気にしてたよ」

 敦子はくるっと振り向くなり、鋭い視線を向けてきた。

 昨日私を……? まさか。敦子がそう感じたのは、おそらく二度も元カレに絡まれた私に思うことがあってとか、そういう意味合いじゃないかな。

「や、それはほら……たぶん、あんなこと続いたから心配してくれただけでしょ」
「うん。だからさ。どうでもいい相手を心配なんてしないでしょ? そもそも気にしてたから真希の帰宅ルート付近を通るようにしてたって話だろうし」

 敦子の言うことはもっともで、反論できない。
 だけど、それが特別な感情があるって確信できるものでもないし……うん、ないない。たぶん根っからのいい人なんだ。

 私がひとりで都合よく解釈し終えると同時に、敦子ががしっと両肩を掴んできた。

「まあそんなわけだから、進展あったら方向してよね!」
「そっ、そんなのあるわけないし!」
「わからないじゃない。っていうか、私はあると思う!」

 しどろもどろになる私に、敦子は至極真面目な顔をして言ってくる。

 それ以降はもう敦子の話に耳も貸さず、黙々とマフィンをラッピングして紙袋にしまっていた。
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