捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 その日以降、私の生活は一変した。

 仕事はシフト上、月末まで働き退社させてもらった。
 突然の話で迷惑をかけたものの、全国展開している料理教室でスタッフは充填できるし、ちょうど翌月の七月は大きな人事異動があるからタイミングは悪くなかったようだった。

 私が退社したのと同時に、敦子は別の店舗へ異動になったとも聞いた。

 バタバタしていたのもあって、敦子へは今回の件を『実家の手伝いをするから』ともっともらしい理由で終わらせてしまった。

 左右田屋とのイベントは、当初の予定通りに進むと聞いて安心した。
 おそらく七井グループのほうもトラブルは回避できたと思って、私のほうから詮索は一切しなかった。

 そして、アパートはと言えば、佐野さんと話をした翌週に引き払った。

 我ながら早い行動を取ったと思うけれど、うだうだと現状を考えては暗くなるより、環境を変えて忘れてしまいたかったのだ。

 さすがに新居を探すのは時間もお金もかかると判断し、恥を忍んで上京していた大学四年生の妹を頼ることにした。

 彩希(さき)は文句を言いつつも、『もう内定ももらってるし、落ち着いた時期だったからよかったけど』と私を迎え入れてくれた。

 当然、私も姉としてこのまま世話になり続けるわけにはいかない、と求人情報を漁っていた。

 調理師の資格を活かせたらいいとはいえ、この際こだわってもいられない。
 そう思って、結局近場の飲食店のホールスタッフを受け、採用された。


 それから約一週間が経った、七月下旬に差しかかった頃だった。
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