捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 彩希は居酒屋でバイトをしている。夕飯はまかないが出るため、彩希が仕事の日は私はひとりで食事を済ませる。
 けれど、今日も私はフルーツゼリーをひとつ食べただけで、ローソファに転がっていた。

 私の手には、一本の妊娠検査薬。ボーッとそれを眺めるのは、帰宅してもう何度目か。
 そこにはくっきりとブルーの線が浮かんでいる。

 やっぱり陽性だった。
 もともと月のものは不順なうえ、通院もしていなかったから妊娠の可能性をまったく読めなかった。

 当然、子どもの父親は彼だ。

 こうなった以上、真剣に現実と向き合わなければ。妹のところに世話になって、保障もないアルバイト生活の現状ではいけない。

 大きな不安を感じ、気持ちが落ち着かない。

 しかし悩みの内容はこの先〝ふたり〟で生きていくビジョン。
 我が子の生死にかかわる迷いは、まったく浮かんでこなかった。

 子どもを産み育てるために、もちろん働く。でも現実問題、私ひとりで抱えられるものじゃない。未知の世界だ。
 生きていくために、誰かに助けてもらわざるを得ないだろう。

 この子のためなら、私がどんないばらの道を歩むことになったって構わない。プライドも恥も捨ててでも、この子へは最大限、尽くしてあげたい。



 それから。
 病院で検査を受け、妊娠していると診断された。

 事実を聞いた妹は驚いていたけど、実家へ報告するときには付き添ってくれた。
 私は妹が心配そうにしている横で両親に頭を下げ、未婚で出産をする意志を伝えたのだった。


   * * *
< 93 / 144 >

この作品をシェア

pagetop