■王とメイドの切ない恋物語■
トーマ様は、まだこっちを見ている。

大好きなトーマ様が、すぐそばにいる。

しかも私を、優しくずっと見つめている。

ドキドキしないわけがない。


トーマ様、そんな顔して見つめられると・・・


私、勘違いしちゃいますよ?



いっそのこと、ここで誰が好きなのか聞いてしまえば、楽になるのかもしれない。

でも、勘違いだった時のダメージが大きすぎるよ。

トーマ様の好きな人が他の人ってわかった時、立ち直る自信ないよ。




だから、まだ聞けない。

そのまま、少し時間が過ぎていく。

私は、この沈黙に、たまらなくなって口を開いた。


「あの、トーマ様、実は今日、デザートも作ってきたんですよ」




私の意気地なし。

せっかくのきっかけだったのに、話題をそらしてしまった。

肝心なときに勇気ない私…

私はまだ、トーマ様の、本当の気持ちを知るのが怖かった。

だって、王とメイドだよ。

普通だったら、ありえないよ。

無理だよ…




トーマ様は、私の気持ちを察してか、不自然な話題のそらし方を、触れることもなく、


「それは楽しみだな」

と、にっこり笑ってくれた。

トーマ様が、そう普通に接してくれたお陰で、さっきまでの緊張感はなくなり、再び穏やかな時間が流れた。
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