小悪魔王子に見つかりました

でも、そんなみんなの思いにとうとう木野くんが泣いちゃって。

あの木野くんが泣いちゃうもんだから、釣られて女子組全員ももらい泣きしちゃって。

そんな空気を締めようと、和子ちゃんが、

「あーもー!ケーキ、ケーキ!食べよ、早く!」

と立ち上がって、ケーキ入刀を始めようとした瞬間。

「ダメっ」

小さいけど力強い声がした。

今日、初めてしっかり聞いた樹くんの声に、みんなの動きが止まる。

「樹?なにがダメなの?」

彼の顔をしっかり見つめながら穏やかに聞く木野くん。

すると、樹くんの小さい口がわずかに開いた。

「……もったいない、から」

「え、」

思わず声が出た。

あまりにも予想外なセリフだったから。

「もったいないって?」

「恐竜さん、食べちゃったらなくなっちゃうでしょ。それに、ケーキなくなっちゃったら、隆一くんもお姉ちゃんたちも、みんな帰っちゃうから」

「樹くん……」

樹くんが、私と、

ううん、きっと、ここにいるみんながそう。

『この時間が、ずっと続けばいい』

樹くんも同じ気持ちなことが嬉しくて。

また泣きそうになる。
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