契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そんなことを考えながら、孝也は健太郎と差し向かいに座る。そして店員が持ってきたおしぼりを受け取った。

「俺も一旦そっちの実家に寄ってきたんだ。おばさんに挨拶したくて」

 健太郎が店員に一杯目のビールを頼んでから、ニヤリと笑った。

「もうすっかり婿の顔だな。関心関心」

 孝也は「なんだよそれ」と言って笑った。

「だってまさか本当に孝也が姉ちゃんと結婚するなんて、俺まだ信じられてないんだけど。もしかしてお前のことお兄ちゃんって呼ぶべきか? それともお兄さま?」

 戯けてそんなことを言う幼なじみに、孝也が苦笑しているとビールのジョッキが目の前に置かれた。
 ジョッキを互いにコツンと合わせてから、孝也は冷たいビールを飲む。
 健太郎が適当なものを注文しているのを眺めながら、やっぱり気のおけない親友と飲む酒はうまいと思った。記憶にある限りずっと隣にいるこの親友が、今は義弟でもあるのだ。
 長年、想い続けた晴香と本当に結婚することができた。
 その事実を噛み締めて、孝也は無意識のうちに笑みを漏らした。

「うまくいってるみたいじゃないか」

 料理を注文し終えた健太郎が意味ありげに孝也を見た。

「本当は姉ちゃんのそういう話なんてしょっぱくて聞きたかないけど、孝也がどうしてものろけたいっていうなら聞いてやってもいいよ」

 健太郎はそう言って片目をつぶってみせる。
 孝也ははははと笑って「いいよ、べつに」と首を振った。
 孝也がずっと胸に秘めていた晴香への想いに、おそらく気が付いていたであろう唯一の人物である健太郎は、ビールをごくごくと美味しそうに飲んでニカっと笑った。
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