契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 七瀬の言葉に、今度は田所が「まさか」と声をあげた。

「副社長がどういうお立場かは社内の誰もが知っているんだ。軽はずみなことはならないはずだよ」

 他社にいた久我を『セントラルホーム』の社長である大東が引き抜いてきたのが二年前。カリスマ営業マンだとはいえ当時久我は、まだ二十六歳だった。
 不動産業界では転職自体は珍しくない。年齢勤続年数関係なく、実力だけが評価される世界だから、優秀な営業マンが条件の良いところへ移るのは、あたりまえといえばあたりまえ。でも、久我の転職はそんな中でも特別だった。
 大東社長が、久我を"次期社長"として指名したからだ。
 『セントラルホーム』は大東が一代で築いた会社だ。
 何もないところから会社を大きくした大東社長は社内では慕われ、尊敬されている人格者だが、おん年六十歳、そろそろ後継者を、という問題を抱えていた。
 大東には息子はおらず、遅くにできた一人娘はまだ大学生。さらにいうと不動産業にはまったく興味がないという話だったから、そこはかとない不安を感じていた社員は晴香だけではなかっただろう。
 絶対的なリーダーを失って崩れていく組織は珍しくはない。
 そんな中で大東は、久我を後継者として指名した。だがそれもすんなりとはいかなかった。それはもちろん古参の社員たちが反発したからだ。
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