お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 艶やかな黒髪から覗く、涼しげな目元と目が合った瞬間、呼吸の仕方を一瞬忘れてしまった。
 しっとりとした美しい光沢のあるダークグレーのスーツを、寸分の狂いもなく着こなしている。
 歩くマネキンのようなスタイルの良さに、私は言葉を失ってしまった。
 ふたりの到着に、私もすぐさま手を付いて、挨拶を交わす。
 父の博文さんは、想像と違いとても穏やかな雰囲気の方で、目が合い早々に話しかけてくださった。
「今日は女房の体調が悪く、ふたりですまないね。凛子さん、着物がとても似合っている」
「お、恐れ入ります……」
「玄、今日はお店があるのに時間をくれてありがとう」
「文博、お前は昔から決断が急だな……。今日はよろしく頼む」
 仲睦まじそうに父に話しかけている姿を見て、本当にふたりは仲が良かったのだと実感した。
 文博さんを……たしかに何度かお店で見たことがある。
 とても気品の良いおじさまだったから、記憶に残っている。
 店員さんから食事の説明を受けて、お酒が運ばれると、ついにお見合いが始まった。
 私はガチガチに緊張したまま、文博さんからの質問に答えることで精一杯だった。
「うちの家族は高梨園の和菓子が大好きでね。近くに行ったときはいつも買いに行ってますよ」
「ありがとうございます。うちの菓子をほめてもらえることが一番嬉しいです……」
「凛子さんも、いずれお店を継ぐ予定なのかな」
「はい。兄がおりますので、私はサポートする形でと思っていますが……」
「そうですか。あの味を守って頂けるなんて、客として本当に嬉しい限りです」
 三津橋家の一員となった人たちは、基本的には仕事を辞めるか三津橋家の仕事を手伝うこととなっているのだろう。
 だとしたら、お店を継ぐ身である私との結婚は、相手にとって条件がよくなはず。
 いったいどうして、こんなに見た目もスペックも一般人離れした高臣さんと、私はお見合いをしているんだろう。
 私の疑問が文博さんに伝わってしまったのか、彼はおどけたように話し始めた。
「じつは、息子は仕事一筋のロボットのような人間でね……。どんな見合い話も断っていたんです」
「え……」
「それがどうしたことか……。凛子さんの話をした途端、ぜひ見合いをお願いしたいと言ってきてね。今、凛子さんはうちの百貨店本店の食堂で働いているんだよね?」
< 11 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop