お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 出会って何年経とうと、私は高臣さんにはなにひとつ敵わない。
「もう五年も一緒にいたら知ってるだろ? 俺は凛子のことが、愛しくて仕方ないんだってこと」
「は、はい……」
「ふ、ならいい」
 静かに笑う彼の柔らかい表情を見て、胸の中が温かくなっていく。
 そんな彼のうしろを、何枚もの桜の花びらがひらひらと舞い降りていった。
 その光景を見て、高臣さんと出会った日のことが、桜と一緒に瞼の裏に浮かんできてしまった。
 ――これは政略結婚だ、とキッパリ割り切った言い方をした高臣さん。
 最初は少しだけそのクールさに緊張したが、彼が優しい人だということは、ただの勘だけれど目を見てすぐに分かった。
 そういえば、今さらだけれどあのとき高臣さんに対して抱いた感情があることを思い出した。
 高梨園を守りたいと思ってくれた理由を聞いたとき、高臣さんは『変わらないものがひとつあるだけで……心が落ち着いたりする』と、答えたのだ。
 私はあの瞬間から、この人を愛おしいと思い、守りたいと思っていたのかもしれない。
 彼にとって"変わらないもの"に、私がなってあげたいと、密かに願ってしまったのかもしれない。
 でもそんなことを言うのは、まだ少し気恥ずかしいから。
 ふと昔のことを思い出してぼうっとしていた私を、高臣さんは少し不思議そうに見守っていた。
 そんな彼の手を握りしめて、私は改めて最大限の愛を誓う。
「ずっと、高臣さんのそばにいます」
 真夜中、桜の木の下、車の中で。
 私はぽつりと、でも力強く、そうつぶやいた。
 彼の目が、また少しだけ驚きで丸くなって、でもすぐに優しく細められていく一連を見て、私は心の底から幸せを感じたのだった。
「凛子に出会えて、本当によかった」
 後部座席に、かけがえのない愛しいわが子の寝息を聞きながら、車は夜桜のアーチの下をゆっくりと発進していく。
 人生の終わりが来るまで、どこまでも共に歩んでいこう。
 
 end
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