お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
「高臣さんのお父さんも、すでにうちの出店を希望しているんだよね? もし銀座に二号店を持つことになったら……、私、その新規店舗に立ちたい。そうしたら、お父さんも安心して和菓子を提供できるよね?」
「凛子……」
「うちの和菓子を本心で好きでいてくれる高臣さんと一緒なら、頑張れると思ったの」
 最後の後押しが聞いたのか、ふたりは顔を見合わせて、静かに頷いた。
 私の瞳に嘘がないと思ってくれたのか、それともこの状態の私は一歩も引かないと言うことを知っていて、根負けしたのか……。
 父は、色んなことを頭の中で考える素振りを見せたあと、私の顔をまっすぐ見つめてこう宣言した。
「……分かった。高臣君と、その話を進めてみよう。凛子、そのときは二号店を任せたぞ」
「はい……!」
 重い責任を感じる。だけどそれ以上に、私はワクワクしていた。
 ずっとこのお店を本店の経営だけで守ってきた父……、変わらない味と、新しい味を届けられるよう、私はもっと成長しなければならない。
 そう自分に言い聞かせていると、父は声のトーンを一段階下げて、念押しした。
「その前に、もっと大事なことがある」
「はい」
「高臣君と、ちゃんと幸せになること。仮の婚約期間中に、しっかり歩み寄るんだぞ」
「お父さん……」
「お前は、勢い任せなときがあるから……。その後の人生を共にする家族を持つということの意味を……、日々ちゃんと考えて、高臣君と仲良くしなさい」
 父の言葉に、隣にいた母もうんうんと頷いている。
 母はテーブル越しに私の両手を包み込むと、「私は凛子が笑顔ならなんでもいいんだから」と笑って、こう続けた。
「凛子。高臣君を気に入ったのは本当なのかもしれないけど……、少なからずウチの店を守ることありきで決めた婚約だってことは、私もお父さんも分かってるんだからね。もしツラくなったら、帰ってきなさい。お店はなんとでもなるから」
 母の言葉に、私は少し涙腺がうるっときてしまった。
 父も母も、私の考えなんて、お見通しだったのだ……。それでも、私が決めたことを受け止めてくれたのだ。
 よき仕事のパートナーとして、私もしっかり高臣さんと向き合おう。
 まあ、高臣さんが嫌がらない範囲で……だけど。
 政略結婚といえど、"家族"を持つことの重みを、父に言われるまで私は実感できていなかった。
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