お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 普通の恋人同士なら、ここで「これからよろしくね」とか、「ついに同棲スタートだね」なんて、仲睦まじい雰囲気になるはずだけれど、今の私たちの関係では、なんと言葉をかけていいのか分からなかった。
 無言の空気だったけれど、高臣さんの表情はすごく読み取り辛いけれど穏やかで、それだけで十分な気持ちになってしまった。
 住んでいる環境はまったく違うけれど……、この人の生み出す空気感は嫌いではない。
 羊羹に黒文字を添えて切り離し、静かに口へと運ぶ高臣さんの姿は、優美すぎて息が止まりそうなほどだ。
 彼は羊羹を食べてからシャンパンを流し込むと、表情は変わらないまま、幸せオーラを辺りに巻き散らしはじめる。
 かわいい、という感情を、高臣さんに対して本日すでに二回も抱いてしまった。
「……どうですか?」
 笑顔で、もう答えが分かり切った質問をすると、高臣さんはまた固い言葉で話し出す。
「口内調味は日本独自の文化だと言うが……、日本人でよかったと思った」
「つまり……、美味しかったということですか?」
「美味しかった」
「ふふ」
 あまりに素直な反応に、思わず笑みがこぼれてしまう。
 そして、この人がうちの和菓子を好きでてくれることを、本当に嬉しく思った。
 私たちの夫婦関係は普通じゃないけれど……、これからほどよい距離感で歩み寄っていきたいと、心から思えた瞬間だった。
 いつまでも笑っている私を見て、高臣さんは「何がそんなにおかしい」と再び小首を傾げている。
「ふふ、すみません……、いい意味で気が緩んじゃって」
「……凛子はよく笑うな」
 高臣さんのその言い方があまりに優しくて、私は再び胸の一部がキュンとしてしまう。
 なんだか、彼のモテる要素が無限すぎて、恐ろしくなってくる……。
 心の中で頭を抱えていると、高臣さんが真剣な顔で問いかけてきた。
「一緒に住むにあたって、何か聞いておきたいことはあるか?」
「え、あ、あります!」
 突然の質問タイムに、私は慌てて聞きたいと思っていたことを整理する。
 急に政略結婚だということを思い出すような会話に、身が引き締まった。
「私……、職場は変えずに九月半ばまでは働きたいんですけど、いいですか?」
「もちろんだ」
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