お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 だけど……、この獣のような瞳から、逃れられる気が一切しないのだ。
「凛子」
 今度は甘く優しい響きで名前を呼ばれて、その瞬間、体が勝手に動いていた。
 ……小鳥がするようなキスを、彼の唇に恐る恐る落とした。
「高臣さっ……ん!」
 すぐに離れようとしたけれど、後頭部を手で押さえつけられて逃げられなくさせられる。
 さっきのお遊びみたいな私のキスが吹っ飛ぶような、酸欠寸前の深いキスで追い打ちをかけられた。
 彼の濡れた髪が時折肌に触れて、シャンプーの甘い匂いが感覚を鈍らせていく。
 この人は、いったい私に何を求めて、こんなキスをしてくるのだろう。
 ようやく唇が離れると、彼は表情ひとつ変えずに、息切れしている私を見下ろしている。
「どうして……こんなキスを……」
 息を切らしながら、ひとり言のようにそんな問いかけをしたが、彼は黙ったままだった。
 こんな恋人みたいなキス、"私自身"を求められていると、勘違いしてしまう。
 耳を澄ますと、部屋の奥からシャワーの音が聴こえてくる。
 私の部屋から物音がして、シャワーを止めることも忘れて、急いで着替えて駆けつけてくれたのだろうか。
 いま気づいたけれど、寝ている間にかけてくれたであろう高臣さんの毛布が、床に落ちている。
 そのどれもが私の脳を混乱させて、それ以上何かを問いかけることをできなくさせてしまったのだ。
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