お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~

芽生える執着心

▼芽生える執着心 side高臣
 
 今まで、結婚というものに、心の底から興味がなかった。
 仕事以外に何かを考える余裕も、無駄なことを考えて過ごす時間もなかった。
 ただ、唯一自分の心を癒してくれるのは、高梨園の和菓子だけ。
「あ、また高梨園の食べてるんですか。本当に顔に似合わず甘いものが好きですね」
 長時間の会議が終わり、社長室で和菓子を食べて一息ついていると、妹であり広報部の社員である咲菜(サキナ)が、ノックもせずに部屋に入ってきた。
 腰まである長いワンレンの黒髪をかきあげながら、呆れた顔で和菓子の箱を眺めている。
 咲菜は俺に似て相変わらず無表情で、今日もいつも通りダークグレーのパリッとしたパンツスーツ姿だ。
 俺たちは家族であり、特別仲が悪いわけでもいいわけでもないが、会社内では徹底して敬語で話すようにしている。
 俺は咲菜の言葉を完全に無視して、高梨園の定番商品である、鈴の形をした最中を口に運びながら、溜まっているメールをさばいていく。
「高梨園の婚約者とは、上手く行ってるんですか」
「そんな無駄話をしに来たのか」
「社員食堂に代表が急に来られたと、社員が騒いでおりましたので。凜子さんの職場……ですよね」
 食堂に行ったくらいで、そんなに噂になっていたのか。
 とくに凛子はなにも言ってこなかったが、もし彼女の仕事に支障があったら申し訳ないと、今さらながら感じた。
 ピタリとタイピングする手を止めた俺を見て、咲菜はさらに問いかけてくる。
「……もしかして、ゾッコンというやつですか」
「真顔で死語を使うな。笑っていいのか分からん」
「あの、他人にも自分にも一切興味のない代表が……へぇ……」
 否定も肯定もしていないのに、咲菜は確信したように俺の反応をうかがっている。
 生まれてから一度も他人に何かを期待したことはないし、関心を持ったこともない。
 物心ついたときからこの世は競争社会で、常に負けないことが当たり前の日々だった。
 緊迫した日常の中で、恋愛なんかに時間を割いている余裕もない。
 今までずっと、そう思っていた。
 しかし、凛子といるときは……、まるで高梨園の和菓子を食べているときのような、癒しを感じるときが多々ある。
 ――政略結婚を申し出た日、はじめて彼女の笑顔を見た瞬間、バチッと雷に打たれたかのような衝撃があったのだ。
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