お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 ――と、そのとき、ちょうど鞄の中でスマホが震えたので、私は従業員用エレベーターの前で立ち止まる。
 送信者は高臣さんで、『すまない。二週間ほど海外出張が入った。急遽だったので、このまま出ていく。何かあったら連絡して』とメッセージが入っていた。
「に、二週間……!」
 突然、高臣さんが長期出張に出ることになったようだ。
 ということは、私はあの広いマンションでしばらく一人暮らしをするということ……?
 想像しただけで、何もすることが思いつかずにポツンと所在なさげにしている自分が思い浮かぶ。
「この機会に、少しだけ実家に帰ろうかな……」
 多分、今の私に足りないものはリフレッシュだ!
 ほどよくビジネスライクな関係を保つために、高臣さんと接しない間に、自分の気持ちを整理しよう。
 今向き合うべきは、銀座にお店を出すこと。
 私は早々に高臣さんに『私もその間は、実家から通わせて頂きます』とメッセージを送ったのだった。
 
 〇
 
「出戻りか。まあ、もったほうだな」
「永亮。帰ってすぐに嫌味止めてくれる?」
 ちょうどよく二連休が入っていたので、早朝に実家に帰ると、調理場から出てきた永亮とばったり鉢合わせた。
 そういえば、婚約が決まってから実家に帰るのは初めてだった。
 父と母と他作業員は、開店前でバタバタしており、とても話しかけられる状況ではない。
 永亮はちょうどお店の前の掃き掃除をしようとしていたところなのか、箒を手に持っていた。
「私、掃き掃除やるよ。それ貸して」
「あー、じゃあ、暇人に遠慮なく任せるわ」
「会話の中にひとつ嫌味混ぜないと気が済まないのか」
 高臣さんと同じくらい、相変わらず永亮の背は見上げるほどに高く、そばによられると威圧感がある。
 私は図体のでかい永亮をよけて、私物を二階の階段に置いてから、箒を永亮から預かろとした。
 しかし、永亮は箒をひょいと上にあげて、じっと私を見つめている。
「なに? がん飛ばしてます?」
「お前……、本当に婚約したんだな」
「何を今さら……。あ、もしかして焦ってるの? モテないと思ってた私が先に婚約したか……」
 茶化すようにそこまで言いかけると、永亮は真剣な表情で私の顔の高さまでしゃがみ、間近で私のことを睨んできた。
 切れ長の瞳に至近距離で見つめられて、私はその目力の強さに思わず後ずさる。
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