お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 駅から数分歩いた場所にある超老舗の和菓子屋さんを目指す。
 完全予約制の人気店で、きんとんがとくに美味しいと有名なお店だ。
 予約の時間に合わせて作ってもらえる出来立ての和菓子は、まさに感動的な味わいだった。
 ふわふわかつ、しっとりとした食感を堪能した直後、栗の良い香りが鼻を抜けていく。
 優しく上品な甘さが口の中に広がって、できたてを食べてほしいという作り手の想いごと、じんわりと体の中に沁みこんでいった。
 二軒目は、北山駅から少し離れた場所にある和菓子屋さんへ向かった。
 このお店も完全予約制で、できたてを味わうことができる。
 笹に包まれた羊羹が有名で、常連のお客様が足繁く通っている。
 黒文字で切った羊羹を口に運ぶと、笹の香りと繊細な甘さの羊羹が混ざりあって、幸福感で胸がいっぱいになった。
 こしあんの奥深い味が、一口の中にぎゅっと詰まっている。
 私は、目を閉じながらその羊羹を心行くまで味わった。
 三件目と四件目は、新しくできた和菓子屋さんに向かった。
 どちらも若者にウケがよさそうな見た目がカラフルな和菓子が多く、新しいけれど、味はとても本格的だった。
 実際に女性客が多く来店しており、若い人が店内でしきりに写真を撮っている様子が印象的だった。
 そしてついに五軒目にさしかかったところで、私は七条駅に降り立った。
 和菓子屋をずっと夢中で歩き回っていたが、この炎天下なので、さすがに汗がだくだくだ。
 ひとまず日陰で涼もうと、観光客向けのお店が集まった場所へ向かう。
 すると、何やら若い男女が行列をつくっているお店を道路を挟んだ向かい側に見つけた。
「なんだろ……看板は和菓子屋っぽいけど。あ!」
 違う。和菓子屋ではない。
 立て看板のメニューを目を凝らして見ると、そこにはフルーツが盛りに盛られたかき氷屋さんだった。
 この茹だるような暑さだ。混むに違いない。
 かき氷なんてこの時期にはどの喫茶店にもありそうだけど、あのお店は乗っているフルーツの量が半端じゃなかった。きっとそこが指示されているんだろう。
「フルーツかぁ……」
 さっきまで見てきた和菓子屋は、"鮮度"が大事な商品と、"見た目"がカラフルな商品たちだった。
 生のフルーツを使った和菓子は、苺大福が代表的だけど、たしかに色んなフルーツを和菓子に使ったっていいんだよな。
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