お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~
 色んなフルーツが乗ったかき氷や洋菓子があるように、和菓子もそうあっていいんだ。
 それに、フルーツはビタミンも豊富だし、体にもいい。
 ふと自分の中に何かが降りてきたような気がして、私はスマホに思い立ったことを箇条書きでメモをした。
 自分がすべきことは、新しい和菓子を生み出して、新しいお客さんと繋げて、形を変えながら高梨園の伝統も守っていくこと。
 私は脳内で銀座店に立った自分をイメージして、鼓舞しながら、結局その日は合計で八店舗の和菓子屋さんを巡ったのだった。
 
 〇
 
「ふぅー、足がパンパンだ」
 五時間以上歩き回っていた私は、最後の力を使い切って京都駅まで戻った。
 ホテルは京都駅からタクシーで十分ほどの場所にあると聞いていたので、八条口にあるタクシー乗り場へと向かう。
 時刻はもう十七時手前で、ギラギラと熱を放っていた太陽も、もうだいぶ沈みかけている。
 観光客が入り乱れる駅を通り抜けていくと、私は急に腕をぐいっと引っ張られた。
「わっ」
「凛子。お前こんなとこで何してんだ?」
「え! 永亮こそなんでここに……!?」
 ーー手を引かれたほうを驚き振り返ると、そこには同じように目を丸くしている永亮がいた。
 永亮は白シャツにパンツスタイルというシンプルな格好で、何やら大きな紙袋を持っている。
「母親の実家の引越し手伝わされてこっちに帰ってたんだ。そのついでに、今は京都駅内で和菓子買ってた。今ちょうど八条口の駐車場向かおうとしてたところだ」
「あ、そういや永亮のお母さんのご実家、京都だったね。ってこれ、全部和菓子!?」
「おう。東京戻ったら玄さんたちにも、と思ってな。明日帰るから」
 紙袋の中には、箱に詰まった和菓子が大量に入っていた。
 そうだった。永亮の和菓子好きの背景には、京都生まれのお母さんの影響もあるのだった。
 永亮は体が引き締まっているのにかなりの大食いで、半分くらいは自分で食べる用なのだろう。
 まさか京都で永亮に出会うだなんて、とんでもない偶然だ。
 電話をしたあの日から、お店を手伝いに行くことはあっても永亮とはまともに話していなかったから、私は少し緊張していた。けれど、永亮は至って普通の態度だ。
「で、お前は? 今日仕事休みなのか」
「あ、うん。高臣さんが京都出張があって、それについてきた形」
「へぇ、だから今はひとりなのか」
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