お見合い政略結婚~極上旦那様は昂る独占欲を抑えられない~

計算外の未来

▼計算外の未来 side高臣&凛子
 
 思えば、どんなものも手に入るが、本当にほしいものは手に入らない人生だった。
 俺が生まれてきた理由はただひとつ。
 三津橋家の事業をさらに大きくする器になること。
 母親は昔から体が弱く、家政婦が常に身の回りの世話を焼いてくれる日々。
 父親は自由人で放任主義であったので、やりたいことをやればいいと口では言っていたが、俺が後を継ぐことはどう見ても決定事項だった。
 後継ぎとして重宝されていることは、幼いころから十分に自覚していたし、ほしいものがあればすぐに手に入り、小学生まで部屋はもので溢れかえっていた。
 しかし、中学生になった途端、そのすべてがいらなくなり、何もかもを捨てさったことがあった。家政婦は俺が心の病気になったと心配し騒ぎたてていたが、俺はいたって冷静だった。
 ……本当はほしいものなんてひとつもないことに気づき、深い孤独を感じただけだったから。
 そんな自分が、空っぽで、ひどくつまらない人間に思えて。
 きっと、生まれてきた瞬間から未来が決まっている自分に、もうずっと飽きていたんだろう。
 自分に興味がないから、他人にも関心がなかった。人の気持ちなんて想像するだけ無駄だと思っていた。
 感情的になる人間を侮蔑する一方で、咲菜や同級生や従弟が、誰かと喧嘩したり、好き勝手わがままを言って周りの人を困らせていることが、本心ではとてもうらやましかった。
 ゲームや勉強に集中することはあっても、自分は、"誰か"に心を乱されたりすることが一切ない。
 ずっと壁を一枚挟んだ向こう側に自分がいるから、感情が動かない。
 俺が本当にほしいものは、鎧を纏った自分の感情を乱してくれる人……だった。
 一切理性が保てなくなるくらい、感情をぐちゃぐちゃにして、モノクロな日常を壊してくれる人。
 でも、そんな人間、一生現れることはないと思っていた。
 凛子に、出会うまでは。
 『……計算通りじゃなくて、いいですよ』
 あの言葉が、いつまでも優しく胸の中で響いている。
 
「では、それぞれリニューアルオープンに向けた企画の、最終報告をしてください。まずは宣伝部から」
 咲菜の淡々とした声が会議室に響き、いつも以上に気合をいれた様子の社員が、資料をスクリーンに映し出していく。
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