【完】爽斗くんのいじわるなところ。

少なくとも彼のきもち

小鳥のさえずる、朝。
9月、新学期の今、来る途中偶然会った仁胡ちゃんと一緒に登校している。



「莉愛ちんと爽斗くんが……キッス!」


仁胡ちゃんがあえてキとスの間にッを入れるから余計恥ずかしい。


「しっ、言わないで……」


顔から火が出そう。


「爽斗くんってやっぱり莉愛ちゃんのこと好きなんだね」


「そんなわけないよ……! なんでそうなるの?」


「いや、キスって普通好きなひとしかしないでしょうが!」


その声は、決して小声ではなく。



――バシ。


後ろから誰かに後頭部を叩かれて、「いたっ」と頭を押さえながら振り返る。


そこには、不機嫌にあたしを見下ろす爽斗くんがいた。



「さ、さや……とく」


「……何ぺらペら喋ってんの」


ぶちゅっと両頬を潰されながら、爽斗くんの視線は穏やかに仁胡ちゃんへ向かう。



「仁胡ちゃん、今の誰にも内緒ね」


優しい口調に仁胡ちゃんが呆気にとられながら頷くと、あたしの頬は解放された。



かわりに、ど真っ黒の鋭い視線があたしに突き刺さる。



「……つーか根暗は黙って歩いてろ」


……っ。


仁胡ちゃんとあたしとじゃ、こんなに態度が違う。



見せしめのようで、恥ずかしいしあまりに惨め……。


悲しくなって、じわりと目の奥が熱くなっていく。


「……泣くならうつむいときなよ。みんなの目障りだから」


そうアドバイスするだけして、耳にイヤホンをさすと、立ち去っていった。


「……さ、爽斗くんの態度……。好きな子にこんなこと言う……?」


「……、だから、好きじゃないって……」


「うー……、でも脈はあり……」


そこで仁胡ちゃんは正直に言葉を止めるんだから、客観的に見て、脈はないんだろう。


「いや、チャンスはきっとあるから!」


ほら、仁胡ちゃん言い換えちゃった。


「うん……頑張るね……」



そんなふうに二学期は、半泣きからスタートを切った。


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