極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

 『そんなはずないって思ったんですが、叶汰のある言葉を聞いた瞬間、反論出来なくなったんです』
 『…』
 『「あいつら、手話つかえんのかよ」って。私が聴力を失ってから数ヵ月が経った時だったんですけど、私は友達に手話で話された事が1度もなかったんです。初めは珍しかったのか、挨拶程度の簡単なものを使ってましたけど、その時はノートの切れはしに、話題を書かれるだけで……どんな話をしているのか詳しくはわからなくて。口の動きで理解しようと必死でした。…けど、叶汰は違った。手話を覚えてくれていました。…それでわかったんです。あの友人達からは迷惑がられていて、嫌われていたんだって』

 もう随分と昔の事なのに、じんわりと涙が出てきた。畔はそれを隠そうと、椿生に抱きついた。
 聴力を失った事で精神的に不安定だったのに加え、仲良しだった友人の裏切りが、畔を大きく追い詰めた。
 それから、畔は極度に他人の嘘に怯えるようになってしまったのだ。


 そんな畔の頭を椿生は撫でてくれる。
 よしよし、と子どもをあやすように優しく、ゆっくりと撫でてくれた。そのお陰で流れるはずだった涙は引っ込み、畔はゆっくりと顔を上げた。
 すると、椿生は微笑み、畔の目の前で言葉を、紡いだ。

 『話してくれて、ありがとう。………俺は、君の声が聞きたい。そう思ってるよ。いつか、この唇で俺の名前を呼んで』


 そう手話で話した後、椿生は人差し指でそっと畔の唇に触れた。

 それはまるで畔に話せる魔法をかけるようで、畔はいつか彼と会話をする姿を想像してしまったのだった。
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