極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

 『離してっ!』
 「こいつは嘘をついてたんだ。嘘が大嫌いなおまえに…………そんな奴に畔を任せられない」
 『叶汰っ、私は椿生と話がしたいのっ』
 「何が目的だったのかわかんねーけど、今後一切、畔の前に現れなんな」
 

 叶汰が椿生にそう言うと、椿生はやっとこちらを向いた。
 その瞳には光もなく、いつもの笑みもなく。
 無表情の弱々しい彼の顔があった。
 畔を一瞬見た後に、椿生は手を上げた。


 そして、こめかみにつまんだ2指の指先をつけ、頭を下げながら構えた右手を少し前に出した。
 手話で「ごめん」という謝罪の言葉だった。

 『っっ』

 それを見た瞬間、畔は息を飲んだ。

 手話の後、椿生は畔を一目見ることもなく、マンションの奥へと去っていこうとしたのだ。

 ここで彼から離れてしまえば、もう会えなくなる。
 それを感じ、畔は叶汰の振りほどこうとした。けれど、彼の力は強く全く離してくれない。

 畔は彼の背中をジッと見つめ、涙を流した。

 椿生に見てもらわないと、自分の言葉は通じない。気持ちも伝わらない。

 愛しい人が目の前からいなくなってしまう。
 「さようなら」になってしまう。
 海のほとりの続きの物語のように。

 畔は大きく息を吸った。
 そして、意を決して口を開けた。

 「つ………つば、き…………」
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