極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

 畔は大きく深呼吸をして、車窓から外の町並みを見つめた。
 ネオンがキラキラと光、いろんな色の宝石が流れていくようだった。こんな夜の街の楽しさや綺麗な部分を見せてくれたのは、他でもない椿生だ。彼は、畔に優しさと新しい世界を見せてくれて、愛しい人と過ごす幸せの時間も教えてくれた。
 畔にとって、かけがえのない大切な人になっていたのだ。

 (会いたい………。嫌われてても、嫌な顔をされてしまったとしても。あなたに会いたいよ………)

 そんな気持ちだけが出てくる。
 それなら会いに行くしかないのだ。

 そうと決めたら、もうクヨクヨするのはやめよう。畔はそう決めて、窓に写る自分の顔を見つめた。不安そうで悲しげな顔だ。

 (酷い顔………。椿生が好きだったのは、きっと私の笑顔。笑ってないと)

 畔は作り笑いでもいいから、と笑みを浮かべた。それだけで少しは肩の力が抜けてくるものだった。

 そうこうしている内に、椿生の住むマンションに到着した。
 代金を支払い、運転手に頭を下げる。
 すると、その男がにっこりと笑って、「ありがとう」とゆっくりと言ってくれた。男性の暖かい配慮が嬉しく、畔は笑顔でお辞儀をした。



 畔がエントランスに行き、前と同じように彼の部屋のボタンを押す。
 けれど、今回も彼の応答はなかった。

 畔はため息をぐっと堪えた。
 これは予想していた事だった。
 
 握りしめていた鍵を見つめ、畔は心の中で「椿生、ごめんね」と謝罪しながら、鍵穴に差し込んだのだ。
 すると、静かに自動ドアが開く。

 畔はゆっくりと歩き出し、彼の部屋へと向かったのだった。
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