極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
5話「静かな夜の会話」

   5話「静かな夜の会話」

 街中の雑踏に紛れながら、畔は数日前に会った男と走って逃げていた。
 しばらくすると2人の呼吸も荒くなる。

 それなのに、自然と楽しさが込み上げてきて、畔は笑ってしまった。そんな畔を見て男も「クククッ」と小さく声を出して笑った。

 「あんな風に逃げるなんて、自分でもビックリだよ。って、ごめん…」

 そう言って、男は畔の手を離した後、手話で話を掛けてくれる。

 『勝手にあの場所から逃げてきちゃったけど…大丈夫だった?』
 『また、助けていただきありがとうございました』
 『なら、よかった。と、ここで立ち話をしていると見つかるかもしれないから、どこかお店に入ろう。いいかな?』
 『…はい』

 会いたかった人が目の前にいるのに、畔は上手く彼の顔を見れないままに頷いた。

 『あ、その前に公園に置きっぱなしの機材を持ってこないとね。タクシーで近くに戻って、俺が取ってくるよ』
 『何から何まですみません…』
 『気にしないで。じゃあ、行こうか』

 男はそう言うと近くに停まっていたタクシーを呼び、2人でまた公園に向かった。
 こうやって、彼の隣に立って話すことが信じられなかった。夢心地というのは、こういう瞬間なんだろうなっと思った。

< 16 / 150 >

この作品をシェア

pagetop