極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

 (椿生さんだ………椿生さんがピアノ弾いてる)

 とても軽い手の動き、少しゴツゴツとしているけれど長い男らしい指が楽しそうに鍵盤の上を踊っている。
 椿生の横顔はとてもニコやかで、彼が楽しんで弾いているのがわかる。
 どうして彼がこの場所でピアノを弾いているのかはわからない。けれど、その彼の姿がとてもかっこよくて畔は見ていたいと思った。

 すると、丁度曲が終わったのか彼が鍵盤から指を離した。そして、ゆっくりと立ち上がる。聞いていた人達から拍手を貰い、椿生は少し気恥ずかしそうに微笑んだ。と、畔が強い視線を送りすぎていたからだろうか。椿生はこちらを向いて、すぐに畔だと気づき、一瞬だけ驚いた表情になったが、すぐに笑顔になった。椿生はジッと畔を見つめた後、またピアノの前に戻った。椿生はまたピアノに指を置き、ゆっくりと弾き始めた。その指の動きを見て、畔はハッてした。近くの柱に近づき手を添えた。だが、大きな音ではないので、振動は伝わってこない。
 けれど、この雰囲気は知っていた。

 (「青の音色」だ………)

 hotoRiの代表曲でもあり、畔にとっても大切な曲。
 椿生が自分の曲をピアノで演奏してくれるなんて、思っても見なかった事だ。
 きっと、彼の音は優しいのだろうな、そう思いながら、彼がつくる空気感を味わい、泣きそうになりそうな目を必死に堪えたのだった。
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