極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
20話「あの曲」


   20話「あの曲」


 ずっと使い続けて愛着のある皮製のキーケース。カチッとスナップボタンを外してキーフックにかけてある鍵を眺める。そこには2つの鍵がついていた。
 1つは畔の自宅。もう1つは、椿生の家のものだった。手の中で光る真新しい鍵を見て、畔は思わずニヤけてしまう。

 今朝、畔が出掛ける時に椿生から渡されたのだ。

 『このスペアキー持ってて』
 『鍵………貰ってもいいんですか?』
 『一緒に住むんだから当たり前だろ?どーぞ』

 椿生は畔の手を取り片手に鍵を載せた後、もう片方の手でギュッと鍵を包み込んだ。そして、『大切にして』と、口の動きで言われたので、畔はコクコクと頷いた。
 椿生が言った通り、畔の方が早くに帰宅したので、その鍵を使う事になったのだ。

 ドアの前で鍵を十分に眺めた後、鍵穴に差し込みドアも開ける。

 (ただいま………なんて、ね)

 恋人の家で「お邪魔します」ではなく、「ただいま」と言えるのが、妙にくすぐったい思いになる。
< 82 / 150 >

この作品をシェア

pagetop