極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

   ☆☆☆

 その日から、椿生と畔の音楽制作が始まった。と、言っても彼は仕事で夜や休みの日しか時間が取れないので、昼間は一人での作業になる。椿生は少し曲をアレンジしたいとの事だったので、曲はまだ彼に任せたままで、畔は作曲作業に入っていた。
 

 以前、椿生が畔に「この曲について教える」と言ってくれたように椿生はその曲について教えてくれた。


 『俺は「海のほとり」の後の世界を考えながら作ったんだ』
 『芥川龍之介のですか?』
 『そうだよ。ごく普通のやりとりを交わす間柄に人たちでも、きっと別れる時はくる。進学や就職、結婚、離婚、死別……理由はさまざまだけど。必ず別れはくる。けど、その時でさえ新しい事が始まる。期待感なのか、不安なのかはたまた絶望なのか。それも人それぞれだよ。そんな別れと新しい道や出会いを表したかったんだ。………けれど、海を見れば思い出すんだろうなって。あの日に過ごした時間を』
 『………』
 『海のほとりでは海だけど、もしかしたら学校かもしれないし、とあるカフェや公園かもしれない。そんな思い出の場所も人それぞれだ。それを思い出すきっかけになればいいなーって思うんだよ』
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