クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 そして、養育費の期限が終えたその頃が、『藤乃屋』の限界だったらしい。それから二年の間に、一気に音を立てて『藤乃屋』は崩れていった。

 宗一郎が紫織にプロポーズをした頃は、まさに崖っぷちの状態だったのだ。
 そんな時に、実は兄妹ではないので結婚させてくださいなどと言えるはずもない。
どの面下げて言えるというのか。

 心に鍵を掛けるしかなかった……。
 全てをあきらめるしか。

 自分には、紫織の幸せを願うことすら、許されないのだと悟るしかなかった。

 それからは死にものぐるいで働いた。
 とにかく働いて働いて、藤村氏に金を返すこと。それしか、頭になかった。

 会社が軌道に乗った三年前。母を通して藤村氏に一千万を返した。二年前に三千万。去年、四千万。残り、あと四千万に一千万を足して、その上で謝ろうと思っていた。

 事実を知らない藤村氏は、母にそんなことをしなくていいと言ってくれたらしいが、そうはいかない。自分が自分でいるためにも渡すしかない。

『花マル商事』があったあのビルを買ったのもそのためだ。軌道に乗ったところで権利をそっくり渡そうと思っていた。
 そんなことで罪が消えるわけじゃないと、わかっている。

 罰なのだろうと思った。
 紫織に恋をしたことも、彼女とだけは結ばれてはいけないというのに、忘れられないということも。

 全てはこの世に生を受けた自分の罪なのだ。
 とにかく働いて、できることは金を送り続けることしかできないが、それでもいつか許される日が来るのだろうか。

 ――いつか。


「社長? 大丈夫ですか?」
 心配そうに、顔を曇らせるのは営業部の部下だ。
 もしかすると何度か声をかけられたのかもしれない。それだけ集中して考えに耽っていたのだろう。

「ああ、すまない。なにかあった?」
「もうすぐ駅に到着します」

「そうか」
 スマートホンを手に取った。
 通知を知らせるものはなにもない。

 大坂支社を出てすぐ紫織に送ったメッセージに、既読がついたのは早かった。なのに返事がない。
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