眠れない夜は、きみの声が聴きたくて


外は予想以上に蒸していて、歩くだけで汗が滲んでくるほどだった。

「あつい!」

手を繋いでいた未央が、おもむろに麦わら帽子を脱ぎ始める。

「だから家で待ってなって言ったじゃん。ほら、帽子は被ってな」

「帽子は痛いからいや!」

「ゴムも付いてないのになにが痛いわけ?」

暑さのせいもあって、余計に苛立っていた。未央と喧嘩しても仕方ない。まだ私の言ってることをすべて理解できる歳じゃない。そうわかっていても感情的になってしまう。

「……もう、面倒くさい」

なんでも否定したがる妹に嫌気が差して、被らないと言う帽子を無理やりカバンに突っ込んだ。

そして夕方。お父さんが予定どおりに帰ってきた。テーブルに並んでいるお寿司と唐揚げをつまみながら久しぶりに家族団らんの時間が流れていた。

「響は課題とか出てるのか?」

「うん、少しね」

「ちゃんとやってるか?」

「まあまあ、やってるよ」

お父さんはビールを片手に、たくさん質問してくる。あれこれと予想していた会話なんてなにひとつ当てはまらない。けれど、私は肩に力を入れずに受け答えができていた。

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