ロマンスフルネス 溺愛される覚悟はありますか?
晴れやかな笑顔を浮かべた夏雪と目が合うと、ここが会社だということを忘れそうになる。仕事中のツンとすました横顔もカッコいいけど、距離感の縮まった今が愛おしい。


「あのね、夏雪…」








「これは失礼、戻るのが少し早かったようですね」


「ひゃうわっ」



九重さんの声が聞こえて、慌てて夏雪と距離を取る。


「ちょうど仕事の相談をしていた所でした。あなたについての紹介も。」


「何ですかもう。そういうところですよ、真嶋さん!久しぶりに会う彼女なんだから、もっと違う話題があるでしょ」


九重さんは大袈裟に顔をしかめてみせる。秘書と雇用主という関係でも、ビジネスライクな間柄ではないらしい。


「九重さんはとてもすごい方だと教えて頂きました。申し遅れました、矢野透子と申します。よろしくお願いいたします。」


緊張してギクシャクとした挨拶になってしまったけど、九重さんはにこにこして聞いてくれた。


「先ほどは失礼しました。秘書の九重遼河です。
矢野さんと一緒にいらっしゃる時の真嶋さんは、まるで年相応の普通の若者に見えますね。」


「…普段は、違うんですか?」


「んー、そうですね、いつもは…」


そこで夏雪が「余計な情報はいいです」とむーっとしと顔で九重さんの返事を止めてしまう。


「ふふっ。ほらやっぱり、普通の若者みたいになってるじゃないですか。可愛いので撫で回してもいいですか?」


「実行したら即解雇します。」


「冗談ですよ、冗談」


九重さんは笑いながら一切めげる様子がなく、夏雪をからかっている。副社長と秘書とは思えない二人のやりとりに何だか笑ってしまう。


二人にお礼を伝えて別れて、このときは思いがけず夏雪に会えた嬉しさと、夜にまたすぐ会えるワクワクが止まらなかった。
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