結婚から始めましょう。
華子と別れて、ホテルまでやってきたのは、約束の10分前。

堅苦しくないようにカフェでって言われて来たはずなのに、カフェにたどり着く以前に豪華すぎる入口に負けそうだ。

乗り切る自信が早くもなくなりかけていたけれど、いつまでもここに突っ立っていては往来の邪魔になってしまう。いや、警備を呼ばれてしまうかも。
覚悟を決めると、限りなく後ろ向きな気持ちでそろりと足を踏み入れた。



「高橋桃香さんですか?」

「えっ?」

数歩進んだところで不意に名前を呼ばれて、声のした前方へ視線を向けた。長身の男性が足早に近付いてくる。

あっ、秋葉蓮だ。
ホームページの写真より少し伸びた黒髪は、写真とは違ってカジュアルにスタイリングされている。
凛々しさを感じさせる切れ長な目には、今は温かな色を浮かべている。すっと通った鼻筋に薄めの唇。その整いすぎた容姿は、直視するのを躊躇ってしまうほどだ。

実際に対面すると、身長163cmと女としては低くない私が見上げるほどの長身だ。

仕事上がりで来ると聞いていた通り、彼は高級そうなスーツをビシッと着こなしている。
その姿は、ここにいる全ての女性の目を惹きつけていると断言できるほど完璧だった。

私が抱いた第一印象は、きっとすごくモテるに違いない、だった。
いや、間違いなくモテるだろう。


< 32 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop