エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「綺麗にしてるな」

コーヒーをひと口飲んだ四宮さんが言う。

「あいつの部屋の管理もしながら自分の部屋もこうして綺麗にしておくのは大変だろ」
「いえ、そこまででは……。氷室さんの部屋の掃除は本当に簡単にしかしないので」
「そのわりにはいつ行ってもそれなりに片付いてるってことは、氷室が自分で掃除してるってわけか」

信じがたそうに言う横顔に、クスクス笑う。

「遊びにきた友達が世話を焼いてくれてるんだと思いますよ。たぶんですけど」

頻繁に女性を部屋に入れているのは、独身男性ならなにもまずいことではない。けれど、四宮さんの前でそれは言わない方がいい気がして〝友達〟と言葉を濁す。

でもさすがに氷室さんの性格を知っている四宮さんはすぐにピンときたようだった。
「〝遊びにきた友達〟か……」と苦笑いを浮かべている。

けれど、そのあとすぐに真面目な表情に戻った四宮さんは、ゆっくりと私に視線を移すとじっと見つめた。

「藤崎は、今の状況を誰かに説明するとしたらどう話す?」
「え?」
「ひとり暮らしの藤崎の部屋に、夜俺が訪ねてきた今の状況は、〝友達が遊びにきた〟か?」

聞かれている意味がいまいちわからなかった。
でも、雰囲気が一気に色を変えたのはわかり、キュッと口をつぐんだ。

ひとり暮らしの私の部屋に、四宮さんが訪ねて来てカヌレを持ってきてくれた今の状況。

誰かに対して私はどう説明する?


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