エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「鈴とはずっと一緒にいるけど飽きないし、嫌にもならないし。他の女相手なら面倒くせーなって思うようなことでも、鈴なら違う。買い物付き合うのも、他の男からちょっかいかけられてるのを追い払うのも全然苦だと思わない。それって結構特別だろ」

「私にとっても、氷室さんは特別です。……でも、浮気性な人を恋人にするのも結婚相手に選ぶのも嫌です」

さっき、私を見つめる目にドキッとした理由がわかった。
あれは、奥に寂しさを隠している瞳は、昔公園で逢ったときに氷室さんがしていた瞳だ。

寂しくて、でも言えなくて、そんな思いをお互いに共感し合ったときの目。

プロポーズをはっきりと断った私に、氷室さんは少し笑った。

「そこはさ、目つぶってよ。万が一を考えて保険かけておかないと俺は落ち着けないって鈴だってわかってるだろ?」

わかってる。氷室さんはただ女遊びが好きなわけじゃないことも、誰かひとりに本気になるのが怖いことも本当はわかっている。

氷室さんに残る傷を、私だって痛いくらいに知っている。
……けれど。

「氷室さん」
「ん?」
「歯、食いしばってください」

言うや否や、勢いよく頭突きをする。

「いっ……」

ゴ……ッと骨同士がぶつかった鈍い音と衝撃を感じた途端、激しい痛みが広がる。
それは氷室さんも同じだったようで、私から手を離し自身のおでこを押さえていた。

仰向けのままおでこを押さえる私と、私に馬乗り状態のままおでこを押さえる氷室さん。ふたりとも目に痛みから涙がたまっていた。

なんとか苦笑いを浮かべた氷室さんが私を見る。


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