エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


『可愛らしいお顔立ちをされたお嬢様ですねぇ。失礼ですけど、お年は?』
『え……あ、二十三です』

『あらぁ。二十歳くらいに見えますねぇ。二十三歳でしたら、振袖でも充分可愛いかと思いますが、これからのご予定次第かしら。振袖だと適さないようでしたら、訪問着あたりでもよろしいかと思いますが。いかがなさいます? 訪問着でしたら、この辺がお似合いかと。振袖でしたら、こちらなんていかがです?』

着物のかかった専用のハンガーをシャッシャと音を立ててスライドさせながら言う店員さんに、氷室さんは『ああ、それがいいかな』と淡い黄色を基調とした振袖を指さした。

オレンジ色や朱色、そして白の菊が散りばめられた振袖はとても綺麗だけど、それを着なければならない理由がわからない。

私の成人式は四年前に済ませているし、氷室さんだってそれは重々承知のはずだ。

けれど、私の疑問なんて置き去りにして氷室さんと店員さんの会話はトントンと進み、ふたりがかりでされた着付けは二十分足らずで終了。

その後に連れて行かれた美容院でヘアメイクをされ、あれよあれよという間に連れてこられたのが高級ホテル前というわけだった。

「ああ、一応確認するか? まだちゃんと見てないだろ」

そう言った氷室さんが指し出したのは手鏡で、和服専門店を出る際、店員さんが持たせてくれたセットのなかにあったものだ。

二重の目には綺麗にアイラインが引かれ、瞼には控えめな暖色のアイシャドウがのっている。昔から童顔だと言われる顔が、少し大人っぽく見えさすがプロだなと感心する。

鎖骨より少し長い髪はアップでまとめられている。
生まれつきやや茶色い髪に、白と黄色の小花のヘアアクセがよく映えていた。


愛車の外車をホテルマンに預けた氷室さんが「よし。行くか」とポンと背中の帯を押すから、つんのめりそうになってしまう。

だって私の今の足元は、履きなれない草履だ。

和服屋さんで履かせてもらったとき、氷室さんだって『うわ。歩きにくそうだな、それ』と眉を潜めていた。
それを思い出してもらいたい……という思いで横顔を見上げていると、自動ドアをくぐりフロアに進んだ氷室さんは右の方向を向き「お、いたいた」と独り言をもらす。


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