エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


昔から、性格的にだらしのない氷室さんになにかを頼まれるのは日常茶飯事だった。
氷室さんの大学時代、私がどれだけのレポートを手伝ったのかを数えてはいないけれど、両手両足の指じゃ足りないくらいには協力したと思う。

氷室さんが大学時代、私は中学、高校生だ。そんな私にパソコン入力を手伝わせるくらいには、氷室さんはいい加減な人だった。

いい加減さは女性関係でも存分に発揮され、氷室さんは高校大学、そして社会人になった今も、相当乱れた生活を楽しんでいる。

顔立ちが整っているのがいけないと思う。
男性らしさとフェロモンを全面に押し出したワイルドな美形は、周りの女性が放っておかない。けだるい雰囲気や軽い口調も人気に一役買っているんだろう。氷室さんはそれをいいことに遊び放題……というわけだった。

失礼ながら私が親だったら頭を抱えていると思うし、実際に氷室さんのお父さんは頭を抱えている。

とにかく、そんな氷室さんからの頼みごとだから、きっとろくなことではなさそうだと覚悟はしていた。

軽い付き合いを楽しんでいた女性と揉めたから、彼女役として一緒に来て欲しいだとかそのへんじゃないかと予想もしていた。

もっとひどいケースも想定して、本格的に氷室さんを軽蔑してしまうような内容だったらどうしよう、そんな事態になったら私は氷室さんから離れなければならなくなるのだろうか、とさえ考えていた。

――けれど。

今朝早くに私を迎えにきた氷室さんに連れて行かれた場所は、和服専門店だった。

氷室さんは、頭の中にハテナマークしか浮かべられない私を、上品な紫色の着物に身を包んだ、私の母ほどの年齢の店員さんの前に押し出すと『こいつに合う着物、適当に着つけてやって』と言った。


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