僕を狂わせるもの

なぜか最近突然、僕はコーヒーが飲めるようになった。
あなたはコーヒーが好きですか?
美味しいとまではいかないけど、あの苦味にとっても甘いチョコが合うって分かった。

なんて……。
そんなことどうでもいい。
あなたに聞きたいことがたくさんある。
でも聞けない。
聞いたら、僕の気持ちがバレてしまうから。

その左手薬指の束縛(ゆびわ)は幸せですか?

僕はあなたの白くて細い指先に惹かれ、つい見とれてしまう。

時折、キラリと光る指輪が疎ましくて、でも、そいつが唯一僕の理性を保たせているのかもしれない。

何で好きになってはいけないの?
誰かのものだから?
もう少し出会いが早かったら、僕にもチャンスはあった?

違う!
事実こうして出会ってるよ。
許されない恋からはじめようよ。

〝夫〟 〝愛人〟 〝不倫〟なんてそんな言葉に興味はない。
興味があるのはあなただけ。

他人のものでありながら、優しい眼で見つめないでよ。
あなたはずるいよ。
僕の心を掴んでおきながら、一線を越えさせないために、指輪をちらつかせる。

決して人のものが欲しくなるわけじゃない。
たまたま誰かのものだっただけ。

「僕の気持ちはどうしてくれるんだ!責任取れ!」

そんな勝手な言い分が通るなら、とっくにあなたを奪っている。
一人いろんなことを頭に巡らせていた。

と、その時、向かいに座るあなたの汗かいたグラスの氷が、カランと鳴って一つ沈んだ。

〝残念〟と言われたように僕の心まで溶かしていく。
あなたは涼しい顔して微笑み返す。
今日も何も言えそうにない。

悔しいな……。

困らせてやりたいよ。
僕の妄想では、とっくにあなたを押し倒している。
いつも頭の中であなたを裸にしている。

そうだよ。僕は汚くて変態だ。
すでに半分はケダモノと化している。

でもそんな思いとは反対に、妄想に気付かれないために、精一杯に平静を装って苦いコーヒーを飲み干す。

なぜって?

だってやっぱり、あなたに嫌われたくないから。

でもいつか、左手の忌々しい指輪を氷に沈めさせてやりたい、そんな思いがある。



あなたが好きだ。
どうしようもないくらいに。


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