愛は惜しみなく与う⑦

「我慢してただけなのにね。私は知ってるはずなのにね。泣かないのは傷ついてないからじゃない。我慢して気を使って、泣き方が分からないからなのにね。ごめんね」


母上がおそるおそる手を伸ばしてきて、あたしの頭に触れた



「杏、ごめんね」



よしよしと頭を触られる
反応なんかできひん

ただ母上が言った言葉があたしの中で繰り返し再生される。


泣かないんじゃない

あたしは泣けなかった


嫌なことも悲しいこともいっぱいったけど、泣いてしまえば、可哀想なやつだと自分が自分を認めてしまう気がした。
泣いても何も変わらないことを知ってしまったから。

だから泣かなかった


あたしが泣いたのは


全て諦めた時に、志木に泣きついて引きこもりになったあの時だけや。



母上に涙を見せたことはなかった



「こんな母親でごめんなさい。貴方の母親を名乗る資格は私にはありません。ただ最後に……きっかけがないと話せなかった私をどうか許して。いえ、許さなくていい。嫌いでもいい。憎んでいいから……


貴方はこれから、貴方の思うように生きて」


これが母親としての最初で最後のお願いです。



そう言った
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