冬の花
朝方、目を覚ますと隣で鳴海千歳が眠っていた。

ベッドで二人、裸のまま眠ってしまった。

私は鳴海千歳が起きる前に、体を起こしそっとベッドから出よう、とした。

その時、私の腕を背後から鳴海千歳が掴んだ。

「起こしてしまいました?」

振り返らずそう尋ねると、鳴海千歳
はその手を離した。

「待ってていい?」

その言葉の意味が直ぐに分かって、
私は嬉しいと感じている気持ちを圧し殺した。

そうすると、どうしようもなく胸が痛みだす。

鳴海千歳は、私が父親殺しで自首して、その罪を償い終わるその日まで、
待っていてくれるつもりなのだろう。

人の気持ちが変わる事くらい分かる。

鳴海千歳が今はこう言っていても、
本当に何年も待っていてくれるとは限らない。

だから、今、適当にその言葉を受け流せばいいだけかもしれない。

でも、もうこれ以上この人と関わってはいけない。

私は犯罪者…。

私なんかとこの先も関わり続けたら、
この人にも何かしら害が及ぶ。

「夕べは、私どうかしてたんです。
父親を殺した事でもう逃げられないのかって怖くて。
もう楽になりたくて自首する事を選んだけど、それも怖くて仕方なくて。
夕べはきっと、側に居てくれるなら、誰でも良かったんです。
だから、私は鳴海さんの事が好きなわけじゃないです」

その言葉は、全くの嘘ではないのかもしれない。

夕べ、怖くて仕方なかったのは本当で、
だから、鳴海千歳と私はそうなったのだと思う。

最後の、誰でも良かった、と鳴海千歳を好きではないと言う事以外は、本当。

「そう。
なら、夕べ君の側に居たのが俺で良かったよ」

その言葉を背に聞きながら、私は脱いだ衣服を身に纏って行く。

そして、鳴海千歳の方を振り返る事なく、
私は部屋から出た。

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