冬の花
「嘘じゃないよ。
あかりは俺の事、優しいお巡りさんだと思っていただろうから、
そんな俺が父親を殺したって聞いても信じられないよな?
何度もあかりには言おうと思ってた。
俺が、あのくそ親父を殺してやったんだって。
あかりの為に…」

「違う…阿部さん何言ってるの?」


「北川佑樹も、俺が殺した。
同僚に北川佑樹の従兄弟が居て、
そいつから、北川佑樹があかりのマネージャーになってるって聞いて」

以前、佑樹から、阿部さんがK県警で刑事をしていると聞いた事があった。

佑樹の従兄弟が、K県警で働いていると。

「それを聞いたら、北川佑樹を殺してやろうって思った。
北川佑樹もあかりが好きで、俺よりもずっと前からあかりを知っていて。
ずっとそれが気に入らなかった。
あかりがあの村から居なくなり、女優になり、てっきりもう北川佑樹もあかりを忘れているかと思っていたのに。
マネージャーになって、またあかりに近付いてるなんて」

阿部さんがその同僚から、
佑樹が私のマネージャーになっていると聞いた事は本当かもしれない。

だけど、佑樹を殺そうと阿部さんが思ったのは、
私が阿部さんに話したから。

あの日の事を、佑樹に見られたから、と。

「北川佑樹が自宅マンションから出て来た所を、
あかりの事で話があると誘って、
車に乗せた。
そして、ひとけのない所まで行き、ロープで首を絞めて、殺した。
遺体は、N県の山奥に埋めた」

その言葉は、何から何まで嘘。

佑樹は、私の自宅で阿部さんが殺した。

その佑樹を自宅に呼び出したのは、私。

「阿部さん、なんでそんな嘘ばかり…」

「喋るな!
次喋ったら、その男を撃つ」

阿部さんは、私から鳴海千歳に銃口を向けた。

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