結婚はあきらめ養子を迎えたら、「お義母様大好き」と溺愛されています
 本当は、朝の失態の結果を知りたいような知りたくないようなと……もし本当に嫌われたりしてたらどうしようと。
 その気持ちが心に重くのしかかって足が重たくなっているだけで……。
 はぁー。
 のろのろと歩いていくと、屋敷の入り口付近が騒がしくなった。どうやら、客人が帰っていくようだ。
 どんな人間だ?
 姿を一目見てやろうと思ったけれど、セバスや他の使用人に囲まれるようにして移動していたため姿を見ることができなかった。
 使用人があれだけお見送りに出るなんて……高貴な人間ということ……だよな?
 ……落ちぶれ子爵の実家じゃ考えられないような人なんだろうな。王族だったりして。
 いや、流石にそれはないか。王族ならこちらが呼び出されるか。

 玄関のドアをくぐると、リーリアが一人立っている。
 使用人たちは見送りで出払っているのだろう。
 ……両手を広げて、まるで通せんぼをするような恰好をしている。
 ああ、これは……。
 やはり朝のことを怒っているのだろう。
 緊張が顔に現れているし、もしかしなくても「これ以上通しませんわ、もう養子候補でも何でもありません」っていう意思表示なのだろう……。
 どう、言い訳しようか。聞いてくださるだろうか。
「お帰りなさいっ!」
 リーリア様が緊張しつつもニコリとほほ笑み、お帰りと言ってくれた。
 え?あ……。
「ただいま戻りました」
 帰ってきていいのだろうか……。
 僕は、まだ、この屋敷に足を踏み入れてもいいんですか?
「おかえりなさい。無事で何よりです」
 僕の心の声が聞こえたのか、リーリア様が動けないでいる僕の元に近づいてきた。
 そして。

 うっ、っひゃぁぁーーーーっ!

 あれ、これ、僕の幻かな。
 リーリア様が僕の腰に手を回すようにして、僕に抱き着いてきた。
 きっと幻。絶望が見せた都合のよい妄想に違いない。
 ど、ど、ど、どうしよう。

 このまま幻に身をゆだねるべきか、頬っぺたをつねって現実に戻るべきか……。
 究極の選択を迫られている。
 どうする僕。
 どうする。
 このまま幻のリーリアの背に手を回してみるべきか。
 なんて、悩んでいる間に、幻のリーリア様が僕の腕の中からいなくなる。
 ちぇっ。こんなことならさっさと手を回して思い切り抱きしめて、柔らかな熟女の背中の感触を楽しめばよかった。
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