結婚はあきらめ養子を迎えたら、「お義母様大好き」と溺愛されています
 いやだけれど、押しのけることができずに我慢していたという可能性……。
 もしそうだったらどうしよう。親子ならこれくらい普通なんてそんな言葉が通じないくらい……。
 嫌悪感を感じていたら。
 この話はなかったことにと言われたら。
 半年の間に、何としても距離を縮めると思っていたのに、その出鼻で……。
 この話は無かったことにと言われて、追い出されてしまえば、ロマルク公爵とおちぶれ子爵の4男が出会う機会なんてもう二度と訪れないだろう。
 いや、僕が親衛隊として、王族の警護に当たることがあれば、高貴な者が集まる舞踏会などで見かけることはあるかもしれないけれど。立場をわきまえて接しなければならない。護衛の人間が公爵様に話しかけることなどできないだろう……。
 つまり、追い出されたら口説くなんてまるっきりできなくなる。
 ああ、もう、僕は一体、なんて失態を……。
 ふぅ。
 絶望的考えを何度も頭から追い出しながら、帰りを急ぐ。
 このまま悶々と絶望的な思いを抱え続けるのは辛い。もし、嫌がっていたとしても、二度としないと許しを請おう。実家と同じようにしてしまったと。悪意も下心も何も無かったと、そう主張しよう。……うん、大丈夫。
 今まで、好みの熟女を見ても表情を崩さず、性癖がバレないように何食わぬ顔をしてきた表情筋が僕にはある。
 大丈夫。鍛え上げた表情筋は裏切らないって、筋肉は決して裏切らないって、教官が言ってた。
 だから、きっと、下心なんて無かったって、冷静な表情を作って言えるはず。
 そうだよね、僕の前頭筋。眉毛の位置のキープを頼んだよ。準備はいいかい口輪筋。さわやかな笑顔を作りつつ引く憑かないように口を動かしてくれよ。
■ 
 ロマルク公爵家に到着し、馬車を降りて中庭を通り過ぎる。
 来客があるようで、入り口正面に馬車が置けないということで裏から回ったので少し歩くことになった。
 ……来客?
 中庭に面した部屋に通したのだろうか。綺麗に整えられた庭は客をもてなすには最高の景色だ。
 どんな客が来ているのか、気になって窓から中が見えないかと屋敷に目を向ける。
 んー、西日になりかけた太陽の光を窓が反射して全然中が見えない。
 見えないかなぁと、思わずゆっくりな足取りになる。
 いや、違うんだ。
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