ベルガモの棘
新入社員歓迎会は

部長お薦めの居酒屋さんで開催された。

配属されてから約1ヶ月。

この1ヶ月は彼を好きになるのに

十分過ぎる期間だった。

部下や上司から信頼もあり、人望も厚く、

仕事が忙しく寝不足なのか、

寝癖をつけたまま会社に来る姿も

全て

いとおしいと思うようになっていた。

『それじゃあ皆グラスを持ったかな?
ごほんっ。新入社員の皆、これから仲間として一緒に頑張っていこうな。乾杯!』

彼の乾杯の挨拶により歓迎会は始まった。

彼は私から少し離れた所に座って、

同僚と話をしていた。

《最近奥さん、いや沙織さんとはどうよ?ちゃんと結婚生活楽しんでるか?》

同僚の人の

からかうような羨ましがるような声が

聞こえた気がした。

彼は一瞬悲しそうに微笑んで

『まぁね』

そう一言だけ呟いていた。

奥さん、沙織さんっていうんだな。

私だったらそんな悲しい顔させないのに。

はっとした。

私は何を考えていたのだろう。

私だったらなんて...
 

時間的にもお開きになった。

彼はお酒を飲み過ぎたのか、

テーブルに突っ伏して寝ていた。

遥が、

〔いつもは日高部長は酔い潰れるまで飲まないのにどうしたんだろう...〕

と言った。

私は彼が心配になり、

何か彼の力になりたいと

ただ強く思った。

帰り道、私と彼は家が近いとわかった。

そこで同僚の人に

タクシーで彼を家まで送ってくれないか

と頼まれ、私は了承した。

彼の住所を聞いた後解散となった。

タクシーの中、彼は夢に魘されていた。

"沙織...沙織...帰ってきて....."

沙織って奥さんの事だよね...

私の前でその人の名を呼ばないで欲しい。

心がチクッと痛んだ。
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