揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
風呂から上がり、久しぶりに実家の自分の部屋に落ち着いた鈴は、学生時代に使っていた机に置いておいた携帯が光っていることに気が付いた。


着信数件、留守電、LINEも・・・確認するまでもなく達也からだろう。


しかし、鈴は携帯を手にはしたが、それを開いて、内容を確認しようとも、電話を折り返そうともしなかった。


(達也、ごめんなさい。でも私、もう決めたから・・・。)


鈴は心の中でそうつぶやく。


今から数時間前、鈴は正月以来の実家の玄関をくぐった。母は帰っていなかった。


(相変わらずだな。)


実家にいた頃、鈴は家に帰るのは、ほとんど一番乗りだった。小学生までは当然だったし、中学に入って、部活をやるようになっても、高校に進学して、塾に通うようになっても、大学生になって、友達と飲んで帰って来ても、母は戻って来てない方が多かった。


今日も昼間、実家に戻ることを、母に電話で告げると


『どうしたの?珍しいじゃない。』


「達也と・・・ちょっとケンカしちゃって。」


『フーン、わかった。急にそんなこと言われても、何も用意してないし、今夜も遅くなるから、夕飯は自分でやってちょうだい。私は食べて帰るから、気にしないで。じゃ。』


予想は出来ていたが、特に事情を詮索するでもなく、そう言って、母はあっさりと電話を切った。


(これが、神野のお義父さん、お義母さんだったら、大変な騒ぎになっただろうな・・・。)


今はあまり多くを語りたくないのが、正直な心境の鈴にとっては、良子の無関心というか不干渉はありがたい気持ちになれた。


(いよいよ明日か・・・。)


明日の出張は行けません、そう言うつもりで出勤した鈴だったが、結局それを上司に言い出すことが出来なかった。


言えば当然、どうした、何かあったのかと聞かれる。まさか


「高橋さんと間違いを犯してしまうかもしれないので。」


なんて、言えるはずもなく、体調不良と申告しようかとも思ったが、それもやはり気が引けた。


(達也の言った通り、これは仕事なんだもん。前の日に急に行けませんなんて、まして行きたくありませんなんて、言えるわけがないんだよ。)


もう引き返す道はない、そう覚悟を決めるしかなかった。


(達也、ごめんなさい・・・。)


もう1度、達也にそう詫びると、鈴は手にしていた携帯を静かに、机の上に戻した。
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