揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「どういう意味?」


梨乃に尋ねられて


「うん。私はもう少し、のんびりとお互いをよく知り合いながら、ゆっくりお付き合いしたいのに、なかなかそういう人っていないんだね。達也さんみたいに、紳士的な人って、どこかにいないかな?」


と答える鈴。


「達也さん?」


聞き慣れぬ男の名前が出て来て、驚いて聞き返す梨乃に、鈴は達也との経緯を話した。聞き終わると


「そんなたった半日やそこら、話しただけの人を美化して、追い求めてたって仕方ないじゃん。そんなの時間のムダだよ。」


と呆れたように、梨乃は言う。


「そうかな・・・?」


日頃、梨乃の言葉には、頷くことが多い鈴が、珍しくちょっと不服そうに答えた。


もっとも、いつまでも達也を引きずるべきじゃないという意見は、怜奈も同じだった。


「私だって、達也さんとまた会えると思ってるわけじゃないよ。彼のこと、正直運命の人だったのかも、何度も考えたけど、でもあんな別れ方で終わっちゃったんだから、やっぱり違うんだよね。」


「そうだろうね・・・。」


久しぶりに会ったカフェでの席、鈴の言葉に、怜奈は頷いた。


「でも、達也さんとは会えなくても、達也さんみたいな人とは、出会えるかもしれないじゃない。違う?」


「達也さんみたいな人?」


「そう。彼みたいに、がっついてなくて、紳士的な人。私のペースに合う人が、絶対にどこかにいるはずだと、私は信じてるんだけど。」


「それは、そうかもね。」


「でしょ?私は私でしかないから。梨乃には憧れてるし、尊敬に近いくらいの気持ちも持ってるけど、でも私は梨乃にはなれないことはわかってるし、梨乃になりたいとも思ってないから。」


「鈴・・・。」


そう言い切った鈴に、怜奈はなにか、ホッとしたような気持ちを抱いていた。


始まったばかりと思っていた大学生活も、気付けば、リクルートスーツに身を包んで、奔走しなければならない時期となり、結局、4年間の日々は、鈴にとって、有意義な時間となったが、彼女の恋物語は、成就することなく終わった。
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