揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
そしてチェックイン。


まずは温泉。子供二人が男子で、家族旅行でもいつも一人で風呂に行く羽目になっていた佐知子は、義理とは言え、娘と初めて一緒に温泉に入れるのが、とにかく嬉しいようで、嬉々として部屋を出て行った。


「とにかくこの旅行が決まってから、母さんはやたらハイテンションでな。気を遣ってもらって、ありがとうな。」


そう言う父と、いつ以来かいうくらい久しぶりに、達也も同じ湯舟に浸かっている。


「それにしても大変だったな。」


「まぁな。」


「ここだけの話だが、お前、本当に全部飲み込めてるのか?」


そう高也に問われて


「今はな。そりゃ、他の男にフラフラされたのは、ショックだったけど、ちゃんと踏み止まって、戻って来てくれたからな。」


達也は答える。


「そうか、ならいい。それに、大丈夫だから。」


「えっ?」


「今思えば、正月の時は少し変だったが、でももうすっかり大丈夫。今の鈴ちゃんは、以前と同じ目でお前を見てる。お前が大好きでたまらないって目でな。」


「父さん・・・。」


意外なことを言い出した父に達也は驚く。


「結婚すれば、いろんなことがある。付き合っている時は、わからなかったことも、一緒に暮らして行くうちに、相手のいろんな部分が見えてくる。いい面も悪い面も。でもな、それを飲み込み、乗り越えていくのが夫婦だ。時には我慢も必要だろう。だが我慢ばかりしていたら、そんな関係は、いつか必ず崩壊する。それを防ぐ方法は1つしかない。いつもパ-トナ-を見ていることだ。絶対に蔑ろにしないで、尊重して、そして愛することだ。男がちゃんと愛情を持って接していれば、女は絶対に揺らがない。それが自分が愛した相手ならな。」


「・・・。」


「って母さんが言ってたから、伝えとく。」


と言う高也の最後の言葉に、達也はガクッと思わず湯舟に顔が着きそうになる。


「なんだよ。父さんらしからぬシリアスなことを言うと思ってたら、全部母さんのセリフかよ。」


と呆れる達也に


「当たり前だ。俺にこんな気の利いたことが言えるか。俺は母さんの掌でうまく転がされて、呑気に暮らせて、本当に幸せな男だ。」


そう言って、ニヤリと笑った父の顔を見て


「あなたのご両親のように、何十年先もお互いを惚気合える夫婦でいたい。」


という妻の言葉を思い出していた。


このあと、夕食そして就寝。もう一回、お風呂に行って来ると言う妻と母を


(女っていうのは、本当に風呂好きだな。)


なんて考えながら父と一緒に見送った達也は


「じゃ、おやすみ。」


と挨拶を交わして、それぞれの部屋に入って行った。
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