揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
それからデートを重ねて来た2人は、しかし一線を超えるような関係には、未だになっていなかった。


誕生日、クリスマス、バレンタイン・・・きっかけは何度もあったはずなのに、達也は「紳士」のままだった。


1度は、一歩を踏み出そうとしたはずなのに、達也は結局その歩みを止めてしまった。


もちろん、自分を愛してくれてることは感じている。キスも今や、大人の濃厚なキス。時に、胸元に手を伸ばしてくることもある。当然、鈴はドキッとして、身を固くして、「次」を待ち構える。


でも、そこから先は・・・。


「鈴のお母さんにビビって、次に進めないようじゃ、先が思いやられるよ。」


梨乃の言葉が甦る。


(ううん、違う。達也さんは言ってくれた。私と結婚を視野に入れて、付き合ってるって。達也さんは私を大切にしてくれてるんだよ。)


鈴はそう思っている。だけど、その一方で、そんな鈴の心をかき乱す存在が現れていた。


岡田亜弓(おかだあゆみ)。達也が今、マンツーマンで指導している総務部の新入社員だ。


達也と亜弓が、一緒にいるのは仕方がない。達也は亜弓の上司であり、指導官なのだから。かつて、自分の同期のひなたもそうだった。でもひなたの時はもう一人、同期がいたし、自分と達也の関係も今とは全く異なっていた。


だけど今、仕事だからとわかっていても、達也と亜弓の距離は近い。そして一対一。当たり前だけど、平日は、達也といる時間は亜弓の方が断トツに長い。


それに、たまに社内ですれ違っても、達也はいつもと変わらないが、隣りにいる亜弓の達也に向ける視線は明らかに熱い。


ただ、2年前と違って、達也も亜弓と2人でアフター5にどこかに行くようなことはしてないようだし、自分との連絡が滞ることもない。


そして週末のデートはいつものように楽しい。ううん「いつものよう」だから、心が余計に騒ぐのだろうか・・・?


「どうしたの?鈴。達也さんがそんな人じゃないって、一番知ってるのは、あなたじゃないの?」


「うん、そうだよね。」


梨乃と違い、達也の人となりを知る、鈴のもう一人のアドバイザー怜奈に言われて、鈴はホッとしたように頷く。


でも会社で、2人の様子を見ると、やっぱり心が騒ぐ。と言って


「達也さん、あの子との距離、近すぎるんじゃない?」


なんて、ちょっと拗ねてみせながら、達也に釘を刺すなんて芸当は、鈴にはとても出来そうになかった。
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