揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「では神野さん、お先に失礼します。」


「うん、お疲れ。また来週な。」


「はい。」


ペコリと一礼して、岡田亜弓は帰って行く。彼女を見送った達也は、フッと息をついた。


(今週も終わったな。)


達也は2年前も新入社員教育を担当した。2人の女子を、一所懸命に面倒見たつもりだった。


だが、その内1人は、1年も経たないうちに退職してしまった。


「水が合わなかったみたいです、仕方ありませんよ。」


ともう一人の新人だった上本ひなたは言っていたが


(俺がもっと教育担当として、彼女に寄り添っていたら。教育担当を外れても、いろいろフォローしてあげられていたら、違う結果になったかもしれない。)


という悔いを、達也は感じていた。しかし正直、そこまでの余裕が当時の自分にはなかったのもまた、現実だった。


それから2年。主任の肩書をもらい、自分の立場も変わって、初めて迎える新入社員。


(今度は、悔いのないようにしっかり面倒見ないと。岡田は後輩じゃない、部下なんだ。俺の責任は、あの時より全然重い。)


達也はそんなことを考えながら、亜弓と向き合っている。


「神野さん。」


そこへひなたが、書類を持って現れた。


「お疲れのとこ、すみませんが、こちらの書類のチェックをお願いします。」


「はい。」


教育の方が忙しい自分に代わり、今はある程度の業務をひなたが担ってくれている。差し出された書類に、目を通した達也は


「いつも悪いね、上本さん。ありがとう。」


そうお礼を言って、達也は印を押して、書類をひなたに戻す。受け取って、一礼して、席を離れようとして、ひなたは足を止めた。


「ちょっといいですか?」


「うん、どうした?」


と答えた達也は、ひなたの表情が固いのに、内心驚く。


「あの、差し出がましいことを言うかもしれませんけど・・・。」


ここで一瞬、言い澱んだひなただが、次に意を決したように続けた。


「亜弓との距離が、少し近過ぎませんか?」


「えっ?」


「確かに今、神野さんが亜弓の側にいるのは、業務だからというのはわかってます。でも、私達の時と、神野さん、ちょっと違います。」


「そ、そうかな・・・。」


ひなたの言いたいことがよくわからず、達也は困惑する。
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